忘れられない声

朝の満員電車

「具合の悪い方がいます
誰か席を譲って下さい」

澄んだ若い声が近くから響く。

端に座っていたワタシは
咄嗟に立ち上がり席を譲る。

ふらふらと座席に腰を下ろし
額に汗を浮かべた若者が
青ざめた顔で目を閉じている。
時折、吐き気をこらえるように俯きながら。

やがて、多くの人が降りる駅で
彼は自力でホームへと歩み出た。

出張の朝。

見知らぬ女性とワタシが呼応するように
ひとりの青年を支えた。

映画のワンシーンのような
あの澄んだ声は

今も
耳の奥に残っている。

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